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『マスタード・チョコレート』冬川智子

コミュ症が成長して他人と関わるようになってく話は泣ける。

 

マスタード・チョコレート

マスタード・チョコレート

 

 

あらすじ

他人と関わることが苦手で早く美大に行きたいと思っている女子高生の主人公が、予備校の友人や教師との交流を通じて少しずつ変わっていく話。

 

感想

以前読んだ同じ作者の『あんずのど飴』がおもしろかったので買ったが、負けず劣らずおもしろかった。『あんずのど飴』の方は友人との心の距離が離れていく過程を描いた作品で、読後感が少しやるせなかったが、本作は他人との距離が近づいていく話でハッピーよりなのでより万人受けしそうだ。

 

脱コミュ症を扱った作品ですぐ思い浮かぶのは『オナニーマスター黒沢』だが、本作は『オナマス』と比較すると構造上の違いがあった。

『オナマス』の方は脱コミュ症の瞬間を、自身の今までの行為を告白するという目に見える形で描写しており、わかりやすくカタルシスが得られた。

一方、本作では、脱コミュ症は『オナマス』でのような瞬間的な変化としては描かれていない。共通の趣味を持った友人との会話や、教師のやさしさに触れる経験を経て、本当に少しずつ変わっていく。

実際の人の変化は緩慢で目に見えないことの方が多いと思うので、そういう意味では『オナマス』よりも現実にありそうな描かれ方がされている。(ちなみに私は思い出補正もあり『オナマス』の方が好きだ。)

 

作品の終盤で、主人公が受験生だったころを振り返って、自分がいかに変わったかを思うシーンがあって、そこが本当に好きだ。

 

2作品読んで、冬川智子は他人との距離感を描くのがすごくうまいと思った。これからも読みたい。

 

meganeza.hatenablog.com

『インターステラー』クリストファー・ノーラン

今更インターステラーを見た。そして気持ち悪い声を出してぼろぼろ泣いてしまった。 とにかく自分の琴線にふれまくる作品だった。

インターステラー [Blu-ray]

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ストーリーは、娘を持つ父親(主人公)が、滅びつつある地球とそこに住む人類を救うために、移住可能な星を探しに娘を残して外宇宙へ探査に行くというものだ。

 

以下ネタバレあり

 

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『あんずのど飴』冬川智子

仲の良かった友だち同士が、いつの間にか疎遠になっていくのは寂しいことだ。

 

あんずのど飴 (IKKI COMIX)

あんずのど飴 (IKKI COMIX)

 

 

高校に入ってすぐに親友同士だった二人が、恋愛とかなんだかんだを通してだんだん疎遠になっていく様子が描かれている。

 

本当にそれだけの話なのだが、だんだん心が通い合わなくなっていく様子がモノローグ等を使って丁寧に描かれており、心が乱されてしまう。

基本的には主人公の態度には変化はなく、友人側が変わっていってしまう。だんだんと自分から離れていく友人を見ている主人公の視線が悲しい。

 

絵柄は記号っぽく特徴的だ。コマ割りは全編通して1ページに縦長のコマ4つという形式がとられており、こちらもほかのマンガと比べると少々変わっている。

 

特徴的な絵柄等に対して話の題材はごくありふれたものであり、でもそれがおもしろいという不思議なマンガだった。

『辺境で』伊図透


短編集だが同じ登場人物が出てくる話もあり、連作短編のような形になっている。

収録されている話は、美大生の話、小学校の優等生の女の子が不良の男子と高オニをして遊ぶ話、ソ連で鉄道を敷く話など様々で楽しめた。

 

 

「レールの上を歩むこと」と「そこから逸脱すること」

だが話のバリエーションと裏腹に、テーマ性ははっきりしているように思った。

一部そうでない話もあったが、基本的には「レールの上を歩むこと」と「そこから逸脱すること」が対照的に描かれていた。

例えば、美大生の話であれば、周囲のデザイン科の生徒と違い、主人公は慣れない鉄を使って彫刻作品を作っており、周囲から白い眼で見られている。

鉄道を敷く話では、過酷な労働を前にしても帰る場所がなく従事せざるを得ない他の労働者と違い、主人公は使命感を持った人物として描かれている。この話では、大勢にあらがわず、決められた人生を歩んでいくことが、レールで象徴的にあらわされているように思う。

この対比構造が、個々の作品をドラマチックなものにしていると思った。

逸脱することはよいことか

また、作品において、逸脱することは必ずしも好ましいものとしては描かれていないことも印象的だった。

小学生が高オニをする話では、ひとときの逃避行としてかなりきらびやかに描かれている。

一方で美大生の話では、主人公の作品はみなに評価されるわけではない。教員は情熱には同意する一方で、「的外れ」「こんなの評価できない」と言う。

鉄道の話に至ってはどういう結末を迎えるか読んでほしい。

まとめ

総じて、「逸脱」は情熱的できらびやかなものであるが、最終的には「レール」という大きなものに回収されていくことを予感させるような、どこか閉塞的な印象を受けた。

だが、回収され、無駄に終わるからこそ、逸脱することは尊いのだというメッセージも込められているように思った。花は散り際が美しいというように、人が何者かになろうとする情熱は無駄に終わったとしても美しいのであって、それをいつくしむ感傷的な視線が作品を覆っている気がした。

その他

絵は、線が太くコントラストのはっきりしたいわゆるマンガ的な絵ではなく、ハッチングが多用され、グラデーションも細かめにつけられており、温かみを感じる絵だった。

人物の顔の描き方は、似たような作家がいた気がするが思い出せなかったので、誰か教えてほしい。

『LOVE理論』水野敬也

溺れる者は藁をも掴むという。

私はこのような恋愛マニュアル本に付箋を貼りながら読んでいる自分に気付いて、ああ自分は溺れかけているのだと思った。

 

LOVE理論

LOVE理論

 

 

だが読み終えてみたら異常におもしろかった。

なんかここ2年間ぐらいで一番笑った気がする。私の精神がやばいのか、本がやばいのかわからない。

 

内容

恋愛マニュアル的な話にネタを混ぜながらおもしろおかしく書いてある。

マニュアル的な話の方は、「合コンでは女の序列を見抜いて、最高位に位置する女をほめろ」(p.106)とか、なるほどと思う内容もあった。

だが本当にやばかったのはネタの方だ。

 

ネタ

そもそも語りのテンションが異常だ。

本書の一文目から、

「結論から言うと、今からお前をトム・クルーズよりモテる男に育て上げることになる。」(p.4)

で始まる。

 

著者は自身を「水野愛也」と称し、モテない読者である私たちに訓戒を垂れるような立場で書かれている。

だが偉そうに書いてあるかというとそうではなく、ところどころに自虐的な話を交えながら、うまく読者に反感を抱かせないようにしている。

お前たちは、女に酒を飲ませる方法に関しては、完全に勉強不足だ。酒のことが何も分かっとらん。ただ、俺は違うぞ。俺は早い段階からこの事実に着目し、こと酒に関しては研究に研究を重ね、業界でも屈指の「飲ませ上手」と呼ばれるまでになった。今では恋愛のほとんどを酒の力に頼っている。(p.43)


その後も、内容がネタにまみれすぎていて、自分が何を読んでいるのかわからなくなる。

「女性が”優しい”と思う男性の行動」が4ページにわたって箇条書きにされていたり、合コンでの役割が見開きで表にまとめてあったりする。

 

また、言葉遣いも巧みだ。

セックスの鉄則 その二 憑依せよ(p.179)

とか。一体これは何の本なんだ。


しかも最後に著者の感動話めいたものが書いてあって、ポエムで終わる。

 

すごい。

『居心地の悪い部屋』岸本佐知子 編訳

昔から、うっすら不安な気持ちになる小説が好きだった。読み終わったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、なんだか落ち着かない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説。(編訳者あとがきp.181)

 

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

 

 

編訳者あとがきにあるような話を集めた奇想短編集。

奇想短編というと、アイデア偏重で物語自体はそれほど・・・という印象があったが、この短編集に収録されている話は物語としてもおもしろいものが多く、かなり満足だった。

個人的におもしろかった話を抜粋して紹介したい。ネタバレを含むので、これから本書を読もうと思っておりかつネタバレを気にする人は、以降は読まないようにしてください。

 

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『さよなら妖精』米澤穂信


学生時代を思い出して切なくなるいい青春小説だった(記憶改ざん済み)。

 

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

 

 

あらすじ

主人公は高校生のころユーゴスラビアから日本に来た少女(マーヤ)と偶然出会い、約2か月を過ごしたが、マーヤは詳しい住所を教えずに国に帰ってしまう。彼女の居場所を知るため、過ごした2か月の思い出を振り返っていく、という話。

青春小説

青春小説はたまに読みたくなる。
「青春小説」と言われてもいろんな小説があってはっきりしないが、「部活などに対する盲目的な努力」「同年代の恋愛・友情」「大人になる漠然とした不安と期待」なんかに焦点が当てられているのが青春小説だと考えている。

本作でも、主人公の守屋は自身の人生に対して不安抱いている。何をしてよいかわからず、その結果として何も成すことができず死んでいくことを予感して、それを避けるための道標を欲している。

おれはこういう場所に来ると、じりじりとした焦りのようなものが込み上げるのを抑えられなくなる。おれ自身は決して名誉欲の強い人間ではない。少なくとも自分ではそう思っている。しかしそれでいながら、ここに葬られた幾千のひとびとを思うと、ただ生きただ死んでいくことは望ましいことではない、という気になってしまうのだ。(中略)周囲が複雑すぎて、なにから手をつけていいかわからない。ならせめて道標がほしい。道標が。

小さいころは義務教育で一本道だった人生が、高校生を出るあたりからばらけていく。自分でどの道に進むかを決めなくてはならなくなる。

何をやるべきかわからない守屋にとって、マーヤは憧れの存在でもあったんだと思う。彼女はユーゴスラビアのために、いろんな国の文化を熱心に調査しており、自身のやるべきことを決め、それにまっすぐに向き合っていた。

その守屋の憧れがどういう結末を迎えるのかは本を読んでほしい(ミステリだからネタバレになってしまうためあまり言えない)。

ほかにも、友達との掛け合いとか、恋愛っぽいものとか、いかにも青春小説らしい要素も含まれていて、全体的におもしろかった。
氷菓(アニメ)を思い出してまた見たくなった。