物語 シンガポールの歴史 岩崎育夫

歴史系の新書だが不思議と文章に熱があってすごくおもしろかった。

 

シンガポールの特徴の1つは、通常とは異なる順序で国家が形成されたことだと理解した。

通常は、最初に集落があり、集落の中から長が生まれ、その長を中心に集落が発展し国家が形成されていく、という順序になると思う。一方、シンガポールの場合は、イギリスが何もないジャングルを貿易の中継地点と決めてから人が集まってきて歴史がスタートした。つまり、長が最初からいて、そこに人が集まってくるという逆の順序で国ができている。

また、そのような出自のため、国の制度にも確たるものがなかったため、独立後もリー・クアンユーによる強力なリーダーシップの下、経済発展を国是に、白紙のキャンバスに描くように制度が設計され発展してきたらしい(p.226)。

 

シンガポールの発展はリー・クアンユーの影響を抜きにしては語ることができないこともわかった。リー・クアンユーはマレーシアとの統一という目標に挫折した後、シンガポールという資源のない国を国際社会で存続させるためにゼロから社会制度を形成していった。シンガポールを存続させることすなわち経済成長を第一の目的とし、そこにすべての資源を投入しあらゆる障害を排除したようだ。リー・クアンユーは、マレーシアから独立した後に、シンガポールが生き残るためには悪魔と貿易してでも経済発展しなければならないとの趣旨の発言をしたらしい(p.200)が、その目的意識と責任感はどこから湧いてくるのだろう。リーは徹底したプラグマティストだったそうだが、道徳や個人の感情を捨てても必ず目的を達成するという姿勢には、何か憧れを感じてしまう。ギリシアテミストクレスも国民をだましてまで海軍力を増強し、それが当たってペルシアとの闘いに勝ったみたいなエピソードがあったが、歴史に名を残している政治家の自信と実行力はすごい。

 

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)